‘メールねぇ・・・’
健次は吉沢里奈からメアドを受け取ったあと、軽い気持ちでの返信が出来ないでいた。
仕事以外でのメールを送っていいものか、迷っていたのだ。
‘小林の言う通りかな・・・考え過ぎなんだよ、俺・・・’
健次は、そうつぶやくと、ビフィータのソーダ割りに三日月形のレモンをギュッとしぼり、あおった。
‘や・ゆ・よ・・・吉沢里奈・・・’ 携帯を取り出すと、健次はメールを打ちはじめた。
‘こんばんは。お世話になっております・・・’
‘う〜ん、これは無いなあ〜・・・’
迷ったあげく、健次は簡単な挨拶文と、ホームページ案が固まった事、小林とアイランドで呑みはじめたところだというようなことをメールした。
「うん、これなら立派な仕事メールだよな。カズちゃん、ビフィータのソーダ割りちょうだい」
空のグラスを顔のあたりで揺らしながら健次がお代わりを頼むタイミングと同じくしてメールが・・・。
吉沢里奈からだ。
健次は速攻グラスを置くとメールに目を通した。
‘お疲れ様です。相変わらず仲が良いですね(笑)ホームページ案が出来上がったそうで

このプロジェクト初めての具体的な提案ですから、来週、ボスに見せる前に私なりに拝見させていただいて

1回のプレゼンでOKが出るよう進めましょう

今終わったところだから伺いましょうか?’
運ばれて来たビフィータに目もくれずに健次は返信した。
‘ありがとうございます

お疲れでなければ、是非!!!レッドカーペットを敷いてお待ちしています

’
一見冷静そうに見える文面だが、健次の心の中は‘あ、あ、ありがとございます・・・ぜぜぜひ〜(汗)’くらい焦りまくっていた。
携帯を閉じてビフィータのソーダ割りにレモンを二つしぼると健次は、人差し指で氷をひとかきしてから深呼吸とともに口に運んだ。
仕事の話とはいえ、吉沢里奈がこれからやってくる事に、健次は一人高まり、頭の中は吉沢里奈の笑顔で満開なのであった。
半ば妄想の世界にいた健次に、遠くから呼ぶような声が聞こえ、徐々にその声が近づいてきた。
「おーい、ケンちゃん!」
まぎれもない、小林の声だった。
我に返った健次の目の前に二人の女の娘を連れてにこやかに腰掛ける小林の姿があった。
全身これ笑顔です、といわんばかりの小林は言った。
「この二人のお嬢さん、由衣ちゃんとメイちゃんでーす。こいつ、ケンちゃん。さあ、パーティの始まりだよ!」
「えっ、な・なに?」
健次は突然のパーティ宣言に露骨にうろたえた。